毎月1回発行しています。
 

私は、「音楽理論」の教師です。 聞いただけで「イヤーだぁ」と言わないで下さいね。
音楽大学で「和声法」と「楽曲分析」を教えている。 (ますます嫌われそう!)

このメールマガジンは、
1) 音楽の先生をしている方々
2) 音楽大学の学生さん
3) 学校は音楽系を選ばなかったけれど、とにかく、音楽が好き。
・・・ 聴くのなら何でも。オペラもいいなぁ
・・・ 何かの音楽活動をしている。 合唱、合奏、オーケストラ などなど

そんなあなたに宛てたメッセージ。
暇な時に、ちょっと読んでくださいナ。

フランス・「ペリグー」という町を知っていますか?パスカル・ドゥバイヨン氏の講習を見学に出かけました。(2003.3/11-31)2003.5.20.発売の雑誌「ムジカ・ノーヴァ」に見聞録を書かせてもらっていますので、お読み頂けると嬉しいです。同行したのは3人。「説き語り音楽塾」の塾生が三人。

 ペリグー市が経営する“エコール・ブリテン ”という音楽学校があります。ここでは、一年のうち11月から翌年4月まで、ヨーロッパ中から著名な音楽家を招いてセミナーを催しています。 町が運営しているために、他のヨーロッパ各地でのものに比べて、受講料が大変安い。聴講も。

その上、ここのディレクター氏(私たちは尊敬と親愛の情を込めて“校長先生”と呼んでいるの ですが)の采配が素晴らしい。宿の手配、受講生の練習時間の確保、などなど、実に心のこもった配慮で、この街へやってくる人々を守って下さいます。 バスカル・ドゥバイヨン氏は、何年か前までパリ国立高等音楽院の教授でいらっしゃいましたが 現在はベルリン芸術大学で教えておられます。1999年、ペリグー市を訪問した折、彼のレッスン を見るチャンスのあった私は、その見事なティーチングに魅了されていましたので、今回のチャンスを 知って、是非自分の生徒に彼の「音楽する場」に立ち合わせたい、と思ったのでした。

6日間に及んだセミナーは、期待にたがわぬ密度の濃いものでした。まず、受講生ですが、 フランス・ドイツ・スイス(フランスに隣り合った地方の)などから16人。その内4人はパリに留学中の 日本人でした。私も生徒の一人を受講させたかったのですが、人数制限で断られてしまい、 地団駄踏む思いの悔しさでした。16人の演奏レベルが、まず興味のあるところですが、今回はなかなかハイレベルでしたね。期間中、一人当たり3回のレッスンを受けられるのですが、どの人も 椅子に座ると、ソナタなら全楽章を暗譜で弾き通す。この間先生は何も言わず、譜面を片手に 聴いておられます。すべての受講生が、その量X3曲は用意して来ています。人によっては、もっと たくさんの譜面を抱えていて、「明日は何を弾くの?」と聞くと、「ウーン、まだ迷っているのよ。 聴いて欲しい曲がたくさんあってねぇ」とのこと。 まず、この「譜読みの腕力」に圧倒される。しかし 30年前の自分のカナダでの学生時代を思い出してみても、それは“当然”と受け取られている 訳で、ピアノ専攻の学生の卒業試験が「7分」で切られてしまうような日本の実情を哀しく思い 出しました。 さて、一通り弾かせた後、ドゥバイヨン氏はおもむろにコーチに取り掛かる。 トップ・バッターはFanny という、16歳の少女。Avignion(アヴィニョン)在住、モンペリエ音楽院の学生。曲はバッハ:平均率第1巻・f moll Prelude & Fuge。

先生: 「ねえ、君。“レガート”ってとういうことだと思う?どうやって作る?言葉で言ってごらん」
F:  (弾こうとする)
先生: 「いいや、言葉にしてごらん」  ・・・ F: 沈黙・・・
先生: 「いいかい、ハーモニーが塊として水面下にたゆたっている。その塊の移動に乗ってメロディーが流れているのだよ。“レガート”に弾こうとしたら、水面下を支えている和声・響きとメロディーの溶け合い具合が、鍵を握っているんだ。たったひとつでも、このバランスから飛び出した音を弾いてしまうと、そこで“coupe”(切断された)になってしまって音楽が途絶える。」
ここで、先生弾いてみせる。見事に音が“立ち昇る”のですなぁ。

一事が万事、こんな按配で、非常に具体的かつ論理的に実例を示してレッスンは進みます。 身体の使い方もしばしば話題に上りました。 バリ在住の日本人、ゆうかチャンが、座り方を 直されてちょっと上体の角度が変わったら、バリッと音が出るようになった時は聴衆からため息が 漏れましたね。 レッスン中、「そこのハーモニーはどうなってる?」この質問がひっきりなしにドウバイヨン氏の口を突いて出るのです。「君のペダリング、どうしてそうなる?ハーモニーの進行に照らして妙じゃないか?Figurationを取り除いて和音の進行だけ弾いてご覧。」(暗譜で・と要求) この事態への対応力が将にキーポイント。即座に自分のミスに気付いて先生の指摘の意味を理解する受講者の割合いは、(日本人の私には残念ながら)フランスの生徒に高かった。ハーモニーの動きに感受性が低いということは、つまりは曲の全体像への理解度の遅れにつながって行きます。 音楽を読み解くためには、どうしても水面下のハーモニーの動き・音楽エネルギーの地殻変動を読み進めていく能力が必要だ、と言うことを改めて痛感しました。
  
この6日間を通じて痛感し続けていたことを、ドゥバイヨン氏と話し合うチヤンスがありました。 ある日のコーヒーブレイク。教室を出たところのカウンターで、コーヒーカップ片手の立ち話。「ムッシュ、私、今回ここへ来て本当によかった。自分の考えていたことが間違っていなかった,と確信が持てました。」「ン?どういうこと?」「日本のピアニストがいかにハーモニーに弱いか。その為に音楽の読み取り能力に差し障りが出る、音楽の構造を読み取る力が弱い、という弱点を改めて思いましたよ。」(顔を曇らせて)「それは本当だね。日本を始め,最近数が増えている韓国・中国からの学生もそうだよ。何か理由があるね。古来からの日本の歌には、本来ハーモニーという概念がなかったのでしょう。そのことは大きいと思う。」「私の仕事は、日本の学生にそこのところの力をつけること・なのですよ」 「それは大事な仕事だ」「ええ、大学の教師としても奮戦しているのですがねぇ。私ね、4年前からピアノの先生にハーモニーと、その力を使って楽譜を読み解くことをコーチする塾を始めたのです」「そりゃぁいい。」「なかなか大変ですが、4年も経つと少しづつだけど結果が出て来る。今回のレッスンを聴いていてこれは間違ってなかった、“音楽読み取り能力”なくして、指の技術の出番はない、と確信できました。でも、なかなか私の願いを理解してくれる仲間に出会い難いのが悩みなのですよ。」「それはマダム、時間がかかるのだよ。これだけヨーロッパで学ぶ日本人が増えて来て、その人々が国へ帰ってゆくのだから、追々、あなたの理解者も増えるでしょう。辛抱して続けて欲しいですね。そのポイントの準備を充分にしてから来てくれると、我々も、とても助かりますからね。」
「今回の残念なことは、やはり言葉。音楽を示して頂けるから解りはするのですが、もっとしっかりと解りたい。来年、私が生徒を受講生に採用して頂く努力をして、見学者と共に連れて来たら、英語でレッスンして頂けますか?そうしたら私が通訳出来ますから。」「いいですよ。」

この瞬間、私は決心しました。2004.3月20日あたりになるらしいという、次のチャンスのために、1年間準備勉強会をして、再びここへ来よう・と。 興味のある方、お集まり下さい。

私たちの夢見ることに、興味を持って下さる方々の投稿を楽しみにしていますね。




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